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OMAR BOOKS

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2015年 04月 08日

残った蜜。

 スプーンひとさじの蜂蜜を珈琲に入れる。すぐにかき混ぜないと
せっかくの甘い液体が、あっという間にカップの底に沈んでしまう。
最後まで美味しく飲むためには、ずっとかき混ぜていないといけな
いのだろうか。

 お店の名前はピーター・キャメロンの『最終目的地』という小説の
主人公・オマーから頂いた。どこか頼りないこの主人公は、大学の
奨励金を得ることができるかどうかの瀬戸際にいる。そこである
作家の伝記を書こうとするのだが思い通りにいかない。

 そんな中、彼は引き受けた管理人をしている別荘近くの森へ、家主
の犬を捜しに行き、「流砂」にのまれそうになる。
「これはぼくの家ではない。ぼくの犬ではない。自分のものといえる
なにかがあればいいのに、と彼は思った。」
 どうにか難を逃れると、へとへとになって家に帰り着く。いつのまにか
犬は何もなかったかのように戻っていて、灯りのともった家の前に立ち
尽くして彼がつぶやく場面だ。そしてこのあと彼は決心して、遠い、
未知の土地・ウルグアイへと旅立つ。

 これまでに何度かこの小説を読み返しているのだが、いつもこの部分
を熱心に読んでしまうというのは、そこに自分だけの謎があるという
ことだ。最近はその謎が解けたような気がしている。

 この物語の続きは、いわくつきの作家が暮らしていたウルグアイという
辺境にオマー青年が現れたことで、何かを諦めたようにそこで静かに
暮らしていた人たちに少しずつ変化が起きていく。
オマー自身は相変わらず面倒を起こし迷惑をかけたりと新しい場所に
行ったからといって大きくは変わらない。否、変わる面もちゃんとあるが、
その彼の役割というか存在が珈琲に入れる蜂蜜のようだとふと思った。

 ちなみに粘度が高い蜂蜜が溶けずに下に流れていく現象はレオロジー
といい、日本語で流動学と訳される分野で扱われるそうだ。

 いつも飲み干したとき、琥珀色の塊がカップに残っているのを見ると
惜しい気持ちになるけれど、でも溶けきってしまわずに、流れながら
そのままであり続けることもなんだかいいなと思う。珈琲に溶けきって
しまうよりもその方がずっといい。
(沖縄タイムス 「唐獅子」コラム 2015.4.7掲載)

# by suikimama | 2015-04-08 09:30 | 唐獅子コラム
2015年 04月 02日

スケジュール組み。

晴れ。すでに5月ぐらいの陽気。
陽射しが少しずつ強くなってきた。
今年は裏の菜園に茄子、トウモロコシ、玉葱、ゴーヤーなど
充実している。収穫が楽しみ。

白い棚や譲ってもらったソファをお店に入れたら、
雰囲気が少し変わる。

今月と来月の読書会のスケジュール組みが大体目処がついた。
日程や進行で変更があったり、番外編が入ってきたので
まだちょっと調整中。やってて分かったのは、こういうスケジュールなどを
考えるのは苦じゃないな。
Aさんも読み始めてくれたようで、反応が楽しみ。

今月最初の回はたまにはOMARの外でということで、
魔法珈琲さんで。10人の会に早々とすでに満席。
ちょっと特別な縁が繋がり、果たしてどんな内容になるのだろう。
この会も回を重ねるごとに形が出来上がってきて、
また質もかなり上がったと思う。
ほぼ全員題材を読んできてくれるので、モチベーションが高いのも
大きな理由。
また魔法さんから本の選書の提案があったのでその準備も。

また、NYからいったん帰国するというTさんと
一緒に番外編も企画中。
ちょっと違った形にしたいなと思いながらまだぼんやり。
と、いうこともあって準備も兼ねて、
今だいぶ「読む」ことに時間を割いている。

世間は新年度、異動、引き継ぎで忙しい様子。
お店の窓から見える巨大なライカムもオープンを控え
夜には明かりが。
道もだいぶ拡張されて様変わり。
これからどんな風に変わっていくのだろう。















スケジュール組み。_f0234682_13513661.jpg


# by suikimama | 2015-04-02 14:20 | study
2015年 03月 28日

手がかり。

曇り時々晴れ。少し肌寒い。

ここ数日、会う人ごとの会話の密がどれも濃くて
内容をじっくり発酵中。とても価値のあるやりとりだけに
大切にしたい。

四月に向け準備中。
課題図書を読み終えた。このところどっぷりとまた浸かっていたので、
まるで遠くへ旅して戻ってきたよう。世界がちょっと変わって見える。
たまたま選んだ本なのに、内容に不思議な偶然も多くてどきどき。
それもあって以前お会いしたことのある方を探し始めたのが、
なかなか手がかりがつかめず。
まだ日があるので、縁があれば繋がるでしょう、と
気を取り直す。

〆切のものも形になって一息。
制約がなさすぎてもだめだし、決めすぎてもだめだな。
ちょっと最初に思っていたのとは違うところに行き着いた。

先日は時間作って知人宅へ。
一ヶ月目に入ったばかりのSくんにご対面。
つやつやしていて可愛かった。
君に助けられたんでした。ありがとう。

また次の課題図書へ。
スピードを上げよう。

# by suikimama | 2015-03-28 18:42 | OMAR
2015年 03月 26日

 3月のスケジュール。

◎3月のスケジュール(営業時間)
3/14(土)読書会使用のため、お休み
3/16(月)定休日
3/18(水)臨時休業
3/21(土)読書会使用のため、お休み
3/23(月)定休日

3/29(日)14:00-18:30
3/30(月)定休日


# by suikimama | 2015-03-26 10:54 | OMAR
2015年 03月 25日

レシート。

 天井近くまで大きくとられた窓。その外には、細かな白いものが
空中で舞っているのが見えた。窓際に寄ると、風があるせいか
下には落ち切らず、2階のここまで何度も吹き上げられている。
その正体は、遠目には桜の花びらにも見てとれる紙吹雪だった。

 まだ学校図書館に勤めていたころ、3月は司書にとって1年の内で
一番の大仕事=蔵書点検が控えている時期だった。卒業式の
その日も、割り当てられた式の仕事を終えると点検の準備をしようと
図書館に戻ってきた。体育館から送り出された卒業生が花道を
歩いている最中で、その光景を窓から見下ろしながら、いつのまにか
送る側に立っているなあ、と不思議な気持ちでその光景を眺めていた。

 自身の卒業式もよく覚えているのは、参加するはずだった両親が
どうしても共に来られない事情があり、それを不憫に思ったKおばさんが
突然花束を持ってきてくれたからだった。てっきり一人の卒業式か、
と内心寂しく思っていた高校生の私は、ふいの優しさに式中は泣きも
しなかったのに、じんわりと胸の内に暖かな何かが広がるのと同時に
目の縁が滲むのが分かった。

 それから何年か経って母校であるこの学校の図書館に赴任が決まった
のだった。過去の、ああやって花道を歩いていた高校生のころの私は、
こうしてこの窓から見下ろすことになる未来をどう想像できただろう。
そして学校図書館を離れて数年、本屋でそのときの事を思い出す
今の私をも。

 後日、そのKおばさんを訪ねた折、1枚の薄い紙切れを渡された。
つるつるとした表面の印字はほとんど消えて、かろうじて文字の跡が
残っている。なんてことない古びたレシート。彼女から渡された意味が
分からず「これは?」と聞くと「何だと思う?卒業式の、あの花束を買ったとき
のものが、この前久しぶりに着たコートのポケットから出てきてね。あとで、
ああ、と気付いて」と笑った。そのレシートの紙の白さが、通り過ぎてきた
これまでの時間を語っているかのようだった。

 学校から離れてみると、図書館での日々がひどく懐かしい。今年もまた、
あの頃の私に似た生徒が、紙吹雪が舞い散る道を歩いたのだろう。あの
白い花びらの中を。
(沖縄タイムス・唐獅子コラム 2015.3.24掲載)

# by suikimama | 2015-03-25 21:00 | 唐獅子コラム